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関西学院事典(増補改訂版)

[ 編集者:学院史編纂室 2014年9月28日 更新 ]

司法研究科

【沿革】 
 大学院司法研究科(法科大学院、ロースクール)は、2004年4月に、全国的な司法改革の一環である21世紀を担う新しい法曹を養成する専門職大学院として設立され、初代研究科長に加藤徹教授が就いた。
01年6月の『司法制度改革審議会意見書―21世紀の日本を支える司法制度―』は、21世紀日本における司法の役割の増大に対応して、司法の運営に直接携わるプロフェッションとしての法曹がいわば「国民の社会生活上の医師」として法的サービスを提供することが必要であるとし、高度の専門的な法的知識とともに、幅広い教養と豊かな人間性を基礎に十分な職業倫理を身に付けた法曹の養成を求めている。

 司法研究科はこの課題を受け、関西学院のスクール・モットーである“Mastery for Service”の理念を基礎にして、「人権感覚豊かな市民法曹」「企業法務に強い法曹」「国際的に活躍できる法曹」の養成という柱を立て、広い専門知識と深い洞察力・豊かな人間性と強い責任感・高度な倫理観を育成し、社会に貢献する法曹を育成するロースクールとして出発した。

 これら目標の達成、とりわけ高度の専門的能力を育成するためには、理論と実務との架橋・融合が重要であることから、司法研究科の教育を担う教員は、研究者教員とともに社会で活躍し経験豊富な実務家教員の確保が重視された。
設立時の専任教員は、研究者教員15名、実務家教員15名の計30名、ほかに客員教授(元裁判官)1名であった。
このような研究者と実務家の適正なバランスは、同時期に設立された他のロースクールと比べ、司法研究科の大きな特徴であった。

 設立時の入学定員は、修学期間2年の法学既修者75名、3年の法学未修者50名(内訳は、一般35名、社会人や特定の能力・経験ある者等の特別15名)の計125名であった。

〔教育の特徴〕 
 上記の教育目標を達成するために、司法研究科では少人数教育の徹底、双方向授業の重視等、従来日本の法学教育にはなかった新しい教育方法を導入し、新しい法曹像にふさわしい多様なカリキュラムを編成するとともに、設立当初から教育内容の充実・改善のためのさまざまな取り組みを行った。

 まず、設立時に採択された文科省の法科大学院など専門職大学院形成支援プログラム「模擬法律事務所による独創的教育方法の展開」(2004年4月~07年3月)に基づいて、アメリカ、イギリスからの講師や日弁連元会長等の実務家・研究者を招いて3回の国際シンポジウムを開催した(「正義は教えられるか―法律家の社会的責任とロースクール教育―」05年3月、「模擬法律事務所はロースクールを変えるか―シミュレーション教育の国際的経験を学ぶ―」06年2月、「よき法曹を育てる―法科大学院の理念とシミュレーション教育―」06年10月)。
また、学内外の講師を含むシンポジウムや講演会・研究会を重ねた(例えば、ビジネススクールの経験に学ぶ講演会「ケースメソッドの原理と難しさ」05年8月、医学臨床教育の経験を踏まえたシンポジウム「変わる専門職教育―シミュレーション教育の有効性―」05年10月、ワークショップ「International Virtual Law Firm Simulation―模擬法律事務所の国際的実践―」06年2月など)。

 さらに、2007年4月からの2年間は、文科省に採択された法科大学院など専門職大学院教育推進プログラム「先進的シミュレーション教育手法の開発」に基づいて、公開研究会(「ロースクール教育の最先端―グラスゴー大学院バーチャル教育システムの可能性―」08年3月、「市民が参加する刑事シミュレーション教育―裁判員時代の分かりやすい法廷を目指して―」08年9月、「専門職責任とシミュレーション教育の有効性」09年1月、「市民が参加する刑事シミュレーション教育―裁判員時代の法科大学院教育―」09年3月)や、講演会・研究会を開催した。

 これらの研究や活動の成果は、司法研究科の教育方法やシステムに活用され、また、先進的な取り組みとして全国的にも高い評価を受けた。
とりわけ、医学部の臨床教育の中で生まれてきた模擬患者(SP、simulated patient)を参考にして、2006年に本司法研究科が取り入れた市民ボランティアによる模擬依頼者(SC、simulated client)制度は、SC養成講座や研究会を重ねて教育プロセスへの市民参加として定着してきている。

 2006年9月には、教育方法やカリキュラムの充実・改善を議論するために、淡路島において教授会メンバーによる合宿研究会をもつなど、教員間での教育の充実・改善の取り組みも重ねられた。

教育内容の自己点検・評価も重視している。
各セメスターごと、授業中間時点における学生アンケート、期末の教員の自己評価、学生評価、学生評価に対する教員の検討や、教員相互による授業参観と相互点検のシステムが確立されている。

 少人数教育を重視するとともに、学生自身による自主的なゼミを奨励し、上級生が下級生の授業をフォローする教学補佐制度や、研究科修了弁護士らの協力による土曜ゼミをはじめとした学生の自主ゼミ支援や文章力アップ講座など、学生の学習サポート体制も定着させることができた。

【現状】 
司法研究科は、2014年4月に設立10周年を迎えた。
06年に始まった新司法試験に、司法研究科は13年秋までの段階で、すでに279名の合格者を送り出した。

 ロースクール制度発足直後からの全国的な司法試験合格者数の抑制とロースクール志願者数の大幅な減少などの状況が進み、文部科学省の指導もあって、司法研究科の入学定員は、2011年度より法学既修者40名、法学未修者60名の計100名となり、14年度からは法学既修者35名、法学未修者35名の計70名となった。
入学試験は、それまで9月の1回であったものを、12年度入試からはA日程(8月)、B日程(9月)、C日程(2月)の3回とし、将来性ある優れた受験者の確保に努めている。

 このような状況の中でも司法研究科は、引き続いて教育内容の充実・改善に努めてきている。
すでに2007年から入学定員において法学未修者の割合を増加させてプロセスとしての法曹養成と学生の基礎力の向上を目指してきた。
学生の現状により適合するように既修者の入学試験科目を減らすとともに、未修者の基礎学力を高めるために1年次の法律基本科目を充実させるなどのカリキュラム改革を進めている。
また、成績評価の充実や試験答案の添削・返却、解説の作成にとどまらない講評会の実施や、学生一人ひとりに対する担当教員制など、学生に対する勉学上のケアをいっそう充実させている。
修了者弁護士等による学習サポートの充実も進めている。
加えて、実務家教員が中心となって司法試験合格者の就職支援や、法曹以外への学生の進路にも対応するための企業法務や自治体法務を中心にしたキャリアサポート体制の充実や、法曹・修了生の職域拡大のための近隣自治体との連携の強化を図っている。
10年5月からは司法研究科教員がその研究内容を発表し、教員および学生間の研究交流の場として判例研究会がもたれている(同研究会の名称は、13年7月からは「法の理論と実務研究会」に変更)。

 全国的にロースクールをめぐる環境は、今日必ずしも楽観できる状況ではないが、司法研究科は、設立の理念と目標を基礎にさらなる発展を目指している。

 現在の専任教員は、研究者教員16名、実務家教員14名の計30名、客員教授(実務家)2名、専任職員5名、在籍学生数は95名である(2014年5月1日現在)。

 司法研究科の主な刊行物は、『正義は教えられるか』(2006)、『変わる専門職教育』(2006)、『模擬法律事務所はロースクールを変えるか』(2006)、『よき法曹を育てる』(2007)、『ロースクール教育の新潮流』(2009)、『市民が参加する刑事シミュレーション教育』(2009)(以上、関西学院大学出版会)。
『SC(模擬依頼者)活動中間報告』(2008)、『専門職責任とシミュレーション教育の有効性』(愛知法曹倫理研究会との共同プロジェクト)(2009)、『市民ボランティアを使ったシミュレーション教育の有効性の学際的研究』(2009年度大学共同研究)(2010)。
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